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今日は久しぶりに、朝6時過ぎに起きた。・・・いや、最近の疲れがたまっていたせいか、普通はせいぜい7時過ぎがいいところなのだが、今日は「起きれた」と言った方がいいかな。
学校は少しゆとりを持ちたかったので、今日は2限から行くことにし、少し空いた時間で外を散歩してみた。
ここんところ散歩の「さ」もしたことがない僕が散歩をしているのだから、自分で驚きだ。


久しぶりの早起きは、やっぱり気持ちいい。時間をずらして大学に行く事で、1時間ばかり余裕がとれるからだ。まあもっとも、1限からいくのがいいにこしたことはないが…。
8時をすぎ、通学のラッシュが少しずつおさまってくる。
まだ他の店がシャッターが閉まっている中、ややおくに入った「そのお店」は、もうドアが開いており、朝のニュースのTVの声が店から小さく聞こえてくる。
周りの店と店の間に立っている一軒の店、「布創造 ウブタ」。
ここは僕がよく知っているお店。
僕が小さい時から、ちょくちょく遊びにいってたお店だ。
ここは洋服のテーラーメイド。つまり、1つ1つをカスタムオーダーメイドでき、自分だけの一着を作ってくれる。
もちろん、値は市販品よりやや上だが、自分だけのこだわった一着はそれ以上の価値を生む。
ここの店内はまるで別な世界のようで、周りを見渡すと、ほぼすべてのものが洋物で、それがかえって新鮮に僕は思ったからだ。「その雰囲気」が通常の生活ではなかなか味わえなく、いろんなことに興味を持っていた少年時代の僕は強烈な印象を受け、すっかり店内に入ったりのぞいてみたりしていた。
「おじさん、ひさしぶりっ!!」
「おお、圭介くんじゃないか、久しぶりだの・・・」
すっかり歳をとってしまった生田さん。それでもこの話し方や口調は前のままで、安心した僕はほっとしている。ここの店長の生田さんは、僕が生まれる前に奥さんを亡くしてしまい、一人暮らし。それでもこの店が好きで、今に至るまでずっとこの今ではすっかりアンティークがかったこの店で切り盛りをしている。
といっても、生田さん・・いや、僕は生田おじさんとクセで呼んでいるが、おじさんももうかなりの高齢で、今ではほとんどのカスタムオーダーを受け付けていない。
今ではいい服は近くに行けば安くて手に入ってしまう時代、というのも影響してか、今では当時の賑わいは少ない。
それでもおじさんは長年一緒に過ごしたこの店が好きで、今でも店内の小さなテレビを見ながら、パイプをくゆらせている毎日だ。


「どうだい、学校は楽しいかい?」
「はい、おじさん、僕、剣道部に入ったんですよ!友達もここで出来たし!」
「おお、剣道部とはまた体力のいる物を選んだの・・・。高校の時までは天文学部をしていたと思ったのにのぅ・・・」
「うん。すごい変わり様でしょ?」
「ほほっ、まったくじゃ」
「今日少しだけ時間が出来たから、おじさん元気かなって思って、来たんだ。パイプが合ってるよ!」
「ははっ、ついに圭介くんにまでいわれてしまったか・・・」
「どしたのおじさん?僕、なんか気にさわったこといった?」
「いやいや、少し前までは服を作ることばかりじゃったから、まさか今こうして定年も迎えて、服作りもなくなっての・・・気付いたら、パイプをすい始めるようになってしもうた。そこを圭介くんに見られて似合ってるよっていわれちゃ、わしももう歳じゃのって実感させられるわい。」
「そうだね、おじさんもがんばったしさ、でもこれからはそんな自分にご褒美をあげる年齢じゃない?」
「ほっほっ、まだまだわしは店を閉めるつもりはないわい、体がダメになるまで、この店はずっと開けるつもりじゃよ。」
「おじさん、がんばりすぎだよ。」
「ははっでもわしももう服を作るのも難しいわい・・・。」
「そんなぁ・・・、おじさんの作る手作りの服、着てるととっても肌になじんで、いいよ!」
「うれしいのう。こんなわしの作る服をまだ評価してくれる人がこんなに近くにいるなんての。」
「ホントだよ!おじさんの作る服は、どんなものも勝てないよ!」
「お世辞じゃなくてもいいんだよ、圭介くん。わしももう腕が落ちていくのが実感し始めてるところじゃわい・・・」
「そんなことないって!」

・・・おじさんは確かに、もう高齢だ。でも自分の愛した店はずっと一緒にいるって話したとき、おじさんのこだわりが分かった気がした。
そして・・・

「そうじゃ、圭介くん」
「何、おじさん」
「そろそろ君も、彼女はできたかね?最近その心配をしているんじゃよ」
「彼女は・・   うん、出来た!  ちょっと前に、いい友達からの始まりだけどね。」
「ほう、そうかい、よかったのう。」
「うん。   ・・・そうだ!おじさん、今日は僕がお客になるよ!」
「それはうれしいよ、圭介くんのオーダーは初めてじゃの。」
「僕が好きなおじさんの服、きっと彼女も喜ぶと思うんだ。着ているととってもぬくもりがあってさ。」
「ほう、君の彼女にプレゼント、という事かね?」
「うん。おじさん、頼めない?」
「圭介くんの頼みじゃ、やりがいがあるのう。それで、どんな服がいいのじゃ?」
「やっぱりコートがいいな。」
「コート?」
「うん」
「圭介くん、いくら君の頼みでも、これを一着作るのにはわし一人でやるからのう、相当時間がかかるぞ・・・」
「どのくらい?」
「ざっと数えても、2ヶ月ぐらいかかるぞい。その位じっくりとこつこつと取り組まないと、納得のいく一着が出来ないんじゃよ。」
「に・・・2ヶ月・・。こだわってるもんね。いくらぐらいかかるの?」
「10万・・・君の頼みでも、8万までが限界じゃ・・・」
「そ・・そんなにかかるの?? あはは・・・」
「やはり、日数も時間もコートとかジャケットとかはかかってしまうんじゃよ。すまないのう、圭介くん・・・。」
「じゃ、しょうがないですよ。僕そこ知らなかったからさ・・・」
「いくらまでの予算があるんじゃ?」
「1万5千円・・がいいところかな・・・少ないよね・・。」
「むふ・・・。その予算で君の彼女にわしの服をプレゼントか・・・。」
「ないですよね、他にもね。おじさんの服はこだわっているのは知ってるし・・・。」
「…」
「…おじさん?」
生田おじさんはしばらくパイプを加えながら、頭の中で考えている。数秒して・・・
「君の彼女は、ちょうど君と同じぐらいの歳かのう?」
「うん。そうだけど…」
「ならば、これなんかはどうじゃ、もう11月も後半じゃ、これからめっきり寒くなるわい。コートやジャケットよりも、きっといいと思うぞ。」
おじさんは、メニューの写真から、「これ」を指差す。
「これ…ですか?」
「ああ、これじゃ。これならば仕組みは簡単じゃから、一週間ぐらいでいいのが作れるぞい。」
「これですか。里江に似合うかなあ・・・」
「きっと合うと思うぞい。徹底的にわしがこだわったものをつくるぞい、圭介くん。」
「そうですか。じゃこれにしようかな。おじさん、いいかな?」
「すまないね、わしの方こそ無理いって・・・。じゃが君からのオーダーは特別じゃ。しっかりとしたいい仕立てにさせてもらうよ。」
「ありがとう、おじさん。今お金を払うよ。」
「いやいや、あとででええ。わしが作ったものを実際に見て、着てもらって、満足いったら、その時にでいいよ。」
「おじさん、いいのかな?」
「ああ。」
生田おじさんは僕に限らず、今までのお客様にもこの姿勢を崩していない。商品をお客が見て納得いったら支払えばいい、と・・・。
おじさんらしいなあ…。

「これって、あまりお店で見かけないけれど、結構するのかな?」
「まあ、決して安くはないのう。」
「それをこの値段でほんといいの?おじさん。無理はしなくていいんだよ。またたまったら来直すから・・・」
「いやいや、いいよ。小さい時からずっと君がわしのところに遊びに来てくれてたからのう。楽しかったし、いいリフレッシュにもなったしのう。せめてものことじゃ。」
「すいません…」
僕の作りたいイメージをおじさんに伝え、おじさんは、「これ」を作るための、里江の身長やサイズといった、細かな注文内容を、年代物の古いノートに書き込んで行く。
そして。

「わしに、まかせての」
「はい。じゃ出来上がりましたら、是非楽しみにしています!」
じゃあ、一週間したら、まだおいで。」
「はい。ありがとうございます、おじさん!」

もうすぐ9時。僕はおじさんの家を出て、家から学校の準備をして出かけた。
里江に、電話をかける。今日もがんばれって。
これが、最近の僕のしていることだ。


携帯電話を出し、「里江」と書かれたリストを出す。
電話をかけると、3回のコールの後、里江が出た。
「おはよう、里江。」
「あ、三原君?おはよう。里江です。ちょ、ちょっと今はまずいんだ・・」
「え?どうして?」
「私、最近ずっと授業を1限から出ているの。がんばって単位も評価も上げたいって思ってね。」
「すごいね、努力家だね。」
「努力家・・・てわけでも無いんだけどね。あはは・・・。」
「じゃ今・・・授業中・・とか?」
「ううん、もう始まっちゃうの。だから、あとであたしから電話かけるわ。お昼でいいかな?」
「うん、僕もその時間は大学の中にいるから。」
「ゴメンね、じゃ後でね。」
「うん」
ピッと携帯のボタンの音が流れ、通話を切った。里江はほんと何にでも頑張っているんだなと関心をするばかりの僕。僕なんか何とかここに入れたっていうのにな・・・。

僕はやや早足で学校へと向かう。今日もこうして一日が始まっていく。


お昼休みになり、構内の食堂でお弁当を食べる。
今日は久しぶりに学食だ。この大学の人気メニューの1つ、380円のカレーライス。
この味付けは実に見事。レストランとかで出るような、いかにも高級らしいカレー、そんな味がするのだ。
一回だけなら、ライスのおかわりもしてくれる。いやはや、うれしいことだ。

友達と楽しく話しながら、昼を食べていると、・・・

「ピピピピッ・・・・」

携帯がなりながら震える。授業中とかでない限り、僕は音とバイブを一緒に出すように設定している。
テーブルに置いておいたので、テーブルもカタカタと音と立てる。

「もしもし・・あ、里江?」
「やっほ、さっきは・・・」
その途端・・・
「おい、三原、彼女か?りえって・・・」
おいおいと友達が片肘でついてくる。
「お前女いたのか?いいなあ、俺にも紹介しろよぉー」
「な・・なんだよ、僕だって・・一人や二人いるに決まってんだろ・・・」
妙にあせる僕、、、何でだろう・・・。
「りえ」の話で友達の二人が勝手に盛り上がっているのを横目に、僕はテーブルから立ち、廊下で話し直すことに。
「ゴメン、さっきは・・・」
「さっきの・・なに?」
「なぜか友達だよ。横で聞き耳立てて聞いててさ・・・」
「あ、そうなんだ。三原、彼女か?って声が聞こえたから、もしかして、この会話、聞かれてる?と思ってた。」
「あはは。ゴメンね、もう回りには誰もいないから

・・・

じっとあたりを見回す。さっきの友達が隅で聞いているかもしれなくって・・・。
しかし回りには誰もいなかった。携帯を再び耳に当て、

・・・ウン、誰もいない。」
「あははっ、いま誰かきいていないか見てたの?」
「うん。もう安心して。」
「はーい。」
「いま、里江さ、なにやっていたの?」
「あたし?あたしは・・いまゴハン食べ終わって、お休みしているところ。」
「何食べたの?」
「さあなんでしょう?」
「それじゃ答えになっていませんっ」
「当ててねっ、ウフフ。」
スピーカーの奥から、里江のくすくすとした笑い声がする。
「家からお弁当だ!きっと!」
「ブー」
「はい?」
「聞いて、笑っちゃうよ!じつはね、カツ丼だったの!!」
「ひ・・昼からパワフルですね・・・」
「まさかって思ってた?」
「正直」
「ご飯は最近学食にしているんだけれど、ちょうど食べたかったものがあいにくなくなっちゃって・・・。」
「でもさ、学食っていっても、随分と量は用意するでしょ?普通」
「それがね、あたし、食べるの遅かったんだ・・・」
「授業が遅かったの?」
「トンデモ。色々とわけありでね。。。」
「じゃ、遅くなっちゃって、学食がなくなってた・・・」
「うん。学食のおばさんに聞いたら、ほとんど売り切れちゃってね、あまってたのが・・・」
「カツ丼、・・・」
「うん、ご飯が想像以上に多くて、いま苦しい・・・。三原君は何食べたの?それともまだ?」
「カレー食べた。380円の。」
「学食?コンビニ?」
「学食さ」
「えーいいなあ、安いね」
「美味しいよ、ここのカレー。今度おいでよ、それでごちそうしてね」
「えーなんでよー、お誘いなのに、私に払えっていうの?失礼しちゃう!」
「あ、ゴメン」
「遅いわよっ!  ・・アハハハッ。」
「ごちそうするよ、それじゃあ」
「ホント、うれしい」
「ここのカレーって、ホントに美味しいんだ、好きなんだよこの味!」
「そんなに?」
「ウン。マジだよ」
「じゃ今度いこうかなぁ、違う学生ですけれど。。」
「うん。おいで!!  あ、ところでさ、・・・午後も授業なの?」
「そうよ。でもあと1限受けたらとりあえず今日は終わり、かな。そのあとはルィクタールに行って、アルバイトよ。」
「そう、じゃ帰りに寄ろうかな。」
「うん、来てねっ」

・・・このような会話をし、午後の授業を受ける。

やがて、授業が終わると、数時間の剣道の練習を友達の長田とし、4時に帰ることになった。
帰りの電車内で、僕はしばらく眠ってしまった。

まさか・・また??  と意識が戻ったのは降りる2駅前。ほっ。
今日はどうやら成田まで行ってしまうことはなかったようだ・・・。


駅に着き、改札を抜け、ロータリーをぬけて家に・・・帰る前に、寄る店があった。
木彫りの看板にプラチナの文字でかかれた「ルィクタール」。
洋菓子とケーキのお店。
ちょっと大きめの店内に所狭しと並ぶ、甘いにおいと色鮮やかなケーキたち。
ここに来ると、この人の声が今日も響く。
「いらっしゃいませー!」
僕は、言葉を返す。
「やあ、里江、元気?」

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